鳥啼くいろは歌
色は匂えど
視界の反転
「うは、何この変な紐。リボンってどうやって結ぶの?」
制服のやたらと複雑な作りのリボンに苦戦中。
数年前、ブレザーやセーラーの可愛らしい制服を着てみたいと切実に祈った、春。
その頃のわたしを思い出すと何だか笑えてくる。
大人になったらコスプレみたいに無理矢理でも着てやるわ!とは思った。
良かったね、案外早くこの時が来たみたい。
嬉しさと可笑しさで笑って指が上手く動かない。只でさえ難しいというのに。
わたしは制服のリボンをベットに放り投げて、鏡の中のわたしを見つめた。
染み一つ無い、ピシッとさっきまで押し花にされていたかのように乾いたYシャツ。
水色のラインが入ったチャックのプリーツスカートには紺のルーズソックス。
わたしがこんな格好をしている事、感謝しなくっちゃお姉ちゃんに。
哀愁の気持ちも微かには感じている。グルグルと混ざっていって気分が悪い。
全ては昨日の電話から始まった。
見知らぬ男からの電話。ハスキーが掛かった、くすぐったくって気持ちの良い声を持っている人だった。
「須土(すど)いろはさんですね、」
余韻が残る声に酔いそうになった。返事を返すのを忘れていたけど、すっと水が多い筆を画用紙に付け、水分が持っていかれる様に体から消えていったと同時に「何ですか」と返した。
「実は先日、お姉さんの須土わかよさんが先日に交通事故で亡くなりました」
「へ?」
わたしは念の為に再度聞き直しをした。
でも鸚鵡返しにハスキーの声。
「お姉さんの須土わかよさんが先日に交通事故で亡くなりました」
あの心地よかったハスキーボイスも今は雑音にしか聞こえない。
わたしが彼女を怨んでいた事は確か。
ろくに会話もしなければ、会った事も数えられる位。
けれど、心に錘が乗っかって軋んだ。