お隣さんの恋愛事情
――――……
「おぉ、はっようございます!!!…セーフ!!!」
「…残念…アウトだっ!」
グッと親指を立ててウインクする課長を見て、本日何度目になるかわからない溜め息をついた。
肩をガクッと落とし、鞄をダラ~っと持ったまま、上がる息を抑えようと自分のデスクに向かう。
「おっはー!今日も凄い髪!セットに何時間かかった?」
「……火曜サスペンス見ながらビール飲んでて、そのまま寝たから………9時間くらい?」
「あんた寝過ぎ!てゆーか、火曜サスペンス見ながらビールって色気ないわ~。」
「昨日は好きな芸能人出てる番組なかったの!」
「そういう問題じゃ…って蚊!!!」
「へ?」
間抜けな声が出たと同時に、隣の席で話し込んでいた同僚・川原朝子(24)の右手が私のオデコにヒット。
パーンと良い音がして、何が起こったか一瞬わからなかったものの、だんだん周りにいる課の社員たちからクスクスと笑い声がして、ようやく今の立場に気付いた。
「…朝子…」
「あちゃ~、あんた血吸われてるよ!こりゃ痒くなるね!」
「…ねぇ、そんなに強く叩く必要あった?めちゃくちゃ痛い…ジーンてする、ジーンて。」
「蚊に好かれる良い女じゃん恭子!」
目の前でピースなんてして笑っているこの女のおかげで、私のオデコの赤みがしばらく消えなかったことは言うまでもない。