お隣さんの恋愛事情
「あ~…化粧落とし?あっクッションか。」
上手く交わしやがった。手慣れてるのか?
私は怪訝な目で彼を見つめながら、今度は奴の心を読んでやると意気込んでいた。
だけど、そんなもの無駄な努力で。
「彼女いないよ。てかこの前別れたし。その子の忘れ物。」
私の手に持たれていたコットンの化粧落としをスッと取ると、それはまたごみ箱の中へと消えていった。
何となく気まずくて二人して沈黙。
てゆーか私早く帰れって話だよね。
「あ~の~っ、何かいろいろすみませんでした!私帰ります!」
「へっ?」
「じゃあ、ありがとうございました!」
荷物を持って、そそくさとリビングを出た。まっすぐ玄関に向かって、朝子から借りたヒールの高い靴を躓きながらも急いで履いて、もう一度振り返って頭を下げた。
バタンと閉めたドアの向こうで、彼が、飲みすぎに良いグレープフルーツジュースを持っていたことなんて知らずに。