お隣さんの恋愛事情



とりあえず店を出て、何故か私の荷物まで持ってくれているエリート男と並んで、マンションへ帰宅。

テクテク歩いていく間、しばらく沈黙が続いた。

だけど、こういう雰囲気って私には耐えられなくて、今日寒いですね、なんて、いかにも「他に喋ることがなくて、だけど何話したらいいかわかんなかったので言ってみました」的な単純な言葉を発した。

だけど、エリート男からの返事は、「そうですね」なんて期待した言葉じゃなく、予想外の言葉だった。




「…気持ち悪いとか思わないんですか…?」


街灯に照らされ、心なしか顔が青ざめているように見える。声のトーンもかなり低い。




「思いませんよ?そりゃ、ビックリはしましたけど。」




いつもは適当な言葉か、小さいツルツルな脳みそで浮かぶことしか言えない私だけど、この言葉に嘘は一つもなかった。



「本当のこと言ってくださいね?」



「だから本当に思ってないですってば!」



「…本当に?」



「本当に!信じてくださいよ!」



そこまで言うと、今までの不安でいっぱいみたいな顔がフニャッと笑って、とても可愛い顔をした。いつものエリート男って感じじゃない。



「…あの…」



「はい?」



「ちょっと口調変わっても引きません?」



「?はい。」



ここで、「はい」なんて言わなければ。
そんな簡単に言わなければ!


私はこの夜、風邪薬飲んでゆっくり眠れたんだろう。



『後悔先に立たず』


とはこのことだと、とても後悔した。


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