お隣さんの恋愛事情
「し~らけどぉ~り~飛んできて~南の空へ、カァカァ」
「なんだその歌。」
「お母さんが昔歌ってた。」
「……何かスゲーな…(色んな意味で)」
イイ感じに酔いも回って、正人に腕を支えられながら歩く。
歩いて帰れる場所に飲み屋があるっていいなぁ、なんて思っていた時。
「ふざけんなよ、コラァ!!」
前方より男のドスの効いた声が響いた。
何事かと正人を見れば、あっちも不思議な顔をしてこっちを見ている。
とりあえず行ってみようと顎で前を指す。
恐る恐る進み、声が聞こえた場所を探せば、ビルとビルの間に、男が一人と、うずくまっている女が一人。
……てゆーか何かあの女の人見たことある気が………
「あ、朝子?!」
たぶん、その男と朝子らしき女には聞こえていなかったんだろう。男は相変わらず怒鳴り声を上げていて、女に殴りかかろうとした。
「ちょっ、待っ!!!」
思わず止めに入ろうとした、その時。
私の目の前にスッと黒い影が現れたかと思えば、その姿はまさしく今、私が止めに入ろうとした2人の間にいて。
「女に手上げるなんて、みっともないこと止めたらどうです?」
低い声がしたかと思うと、その影の正体である黒いコートに身を包んだ背の高い男が、怒鳴り声を上げている男の腕を掴んでいた。