お隣さんの恋愛事情
「なんだテメぇ。お前に関係ねぇだろ。コイツは俺の女なの。口出しすんじゃねぇよ。」
負けじとその男も言い返す。何もできずにただ呆然と立ち尽くす私と正人。
だけど、ふいに正人が口を開いた。
「ちょっと待て…さっきの声って……」
「?」
何のことだかさっぱりわからず視線を戻せば、黒コート男が相手の男の腕を捻った。
「いってぇ!なにすんだよ!」
「お前が何してんだよ。あ?それとも痛い目遭いたいの?ん?」
黒コート男がそう言った瞬間、相手の男は舌打ちをしながら足早に去っていった。
いつの間にか私たちの周りには人が集まっていて、その場にいたほとんどの人が黒コート男に拍手を送った。
ハッと我に返り、慌てて女に駆け寄ると、やっぱり朝子で。
いつもみたいにシャキっとして、文句のつけようがないような女って感じじゃなくて。
私だとわかった瞬間、朝子は私に抱きついてきて、声を上げて泣き始めた。今まで見たことない朝子の姿を見て、私は胸が締め付けられるようだった。
小さな子供みたいに泣きじゃくる朝子の背中をさすり、落ち着かせているうちに、周りには正人と黒コート男と私たちしかいなくなっていた。