ビタースイート
「アイツが?」
先程の出来事をアキに話す。
「何かあると思うんだけど」
「でも同じクラスじゃん」
「そうだけど…」
「心配しすぎだって」
確かに私は井上と同じクラスだけれど、不安でたまらない。
それを振り払うように、私は走った。
「紗都、やるじゃん。さっきよりタイム縮んだ」
夕暮れに、部活動に励む生徒達の声が響く。
「練習だなんて、珍しく気合い入ってるね」
アキに手渡されたタオルで汗を拭う。
「いつもは私が見てる側だから、今度は私を見て欲しいの、水無月君には」
夏休みの怠けの代償が、私に重くのしかかる。
「最後はやっぱり水無月君ですか」
にやにや笑うアキに顔を見られるのが恥ずかしく、タオルで咄嗟に隠す。
兎に角、何も起こらない事を願うしかなかった。
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