ビタースイート


私は生まれ育った故郷を記憶から削除した。

思い出も、言葉も。



中学の時、初めて人を好きになった。

同じクラスで、かなり目立つ人気者、そんな彼が眩しかった。


好き、が抑えきれなくなって私は彼に自分の想いを伝えた。


翌朝、教室がいつもより賑やかだった。

声が聞こえてくる。

私の話?


『そしたらアイツ、何て言うたと思う?』

『えー、何ィ?』

『付き合ってくれやんのやったら私死ぬから!やってさ』

『キモーイ』

『紗都ってそんな子やったんやー』

『顔に似合わず、やなー』


真っ白になった。

いきなり堅い石で頭を殴られたような衝撃を覚えた。

脳が揺れる。


私、そんな事言ってない。

言えなかった。

皆私より彼を信じるってわかってたから。


その話を聞いていた中に、友達だと思っていた子達がいた。


走った。

声が聞こえなくなるまで。


誰もいない家に帰って部屋に閉じこもった。

悔しくて、悲しくて、狂ったように泣いた。



その日から人間が怖くなった。




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