ビタースイート
スープ


街にも学校にも、世間はこの時期恋人で溢れる。

今年もこの季節が来た。


「で、紗都は今年もヒトリ?」

にやにや笑うアキ。
失礼な。


「まあどうせ水無月君しか興味ないんでしょー」

「ちょっ……!!」


いきなり名前を小声で言われ、焦る。


今日はいつもの教室ではなく、学校の食堂でお昼を食べていた。

生徒が皆私を見た、ような気がした。


「アキっ、ここで名前出さんといてよっ」

「ははっ、ごめんごめん」


この間、昔を思い出してから私は故郷の言葉で喋るようになった。

ありのままは、嫌な事を全部吹き飛ばしてくれる。


そのせいか、近くの生徒達が私を見る。
今度は、本当に。



斜め向かいの席に水無月君が来てから、まともに息が出来ない。

先程のアキの声は外で降る雨が掻き消してくれたみたいだった。


でも水無月君とも、その友達とも、しきりに目が合う。


やっぱりバレてる、よね。


冷めたスープを一口啜る。

寒さと緊張で手が震えた。

雨は強さを増している。



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