ビタースイート


思えば、あの人について深く考えた事が無かった。


ただ、いつもの時間の、いつもの電車の、いつもの車両にいる。
そんな人としか思っていなかった。


もしアキちゃんの言った通り、彼がこの学校にいるのなら、私は既に彼と廊下ですれ違ったりしていたのだろうか。


窓から一階の渡り廊下を見下ろし、考える。



「水原、聞いてるか?」


現実に、引き戻される。

いつの間に授業が始まったのだろう。


すみません、と小さく先生に謝る。

周りは携帯電話を触ったり、辞書を枕にして寝ていたり、それぞれの時間を過ごしていた。


「二年は中弛みの時期と言われているが、お前らにそんな余裕はないぞ」

先生の言葉は悲しいくらいに、生徒の誰の心にも届いていなかった。


ふと、思う。

私が一年の時、あの人と電車で会った事が無かった。

今年から、だ。

だとすれば、あの人は一年生なのだろうか。

そうであれば、学校で会わないのも納得がいく。


渡り廊下は春の陽に照らされ、反射した光が私を包む。

もう直ぐ、鐘が鳴る。

お昼のビターチョコレートの苦味が、少し蘇る。




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