放課後、いつもの教室にて
「職員室ってどこかな?」
穏やかな低い声が最初にしたとき、正直それは私に向けられたものではないと思っていた。
だから私はその場に座り込んだまま、今さっきケンカして出来たばかりの傷とにらみ合いをしていた。
「君、聞いてる?」
仕立ての良い革の靴が砂利を踏み鳴らして私の前で止まる。
「知らない」
内心舌打ちしたい気分だったが、早くどこかに行って欲しくて当たり障りのない返事をした、つもりだった。
「君……怪我してるのか?」
「関係ないでしょ」
「いや、確かにそうだけど、でも、」
「うるさいなあ、早くどっか行って。」
私に驚いてどこかに行ってくれると思ったのに、こいつは私に絡んできた。鬱陶しいな、と叫びたくなるのを我慢する。
「顔上げて、」
目の前の革靴が動いて、私が反応する前に顔に両手が伸びてくる。あっという間に両頬を覆うと、その手は意外に強い力で私の顔を上向かせてきた。
「…なっ、」
「この傷……」