腐女子ものがたり
 「ピンポーン」
 インターフォンがなる。
 スコープからのぞくと、女性が一人。
 サークル仲間の坂本時恵だ。
 「がちゃ」
 「ちゃース、美緒さんちゃース」
 妙にこざっぱりしたボトムに上はダウンの、おおよそ女の子らしからぬ服装。これから一仕事しようという腐女子には、おしゃれなどは必要ないことを如実に現わしている。
 「あがってあがって!!今日は地獄なんだから」
 「おっけおっけ、俺にまかしておきなさい」
 ちなみに時恵は、いわゆる一人称が『俺』の女の子だ。
 小柄で、瞳はクリっとしていて、男性がほっとかないであろうのに、もったいない。
 年は同い年の二十歳。
 地元の友達、というか同士で、今は東京の大学に通っている。
 「あい、これ差し入れー」
 と、コンビニの袋から出たのは、スナック、栄養ドリンク、スポーツドリンク、ウェットティッシュ。これらは全て、これから迎える修羅場に対して、心強い備えとなる。
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