腐女子ものがたり
 相変わらず、時恵は奇声を発し続け、私はひたすら無言で手を動かす。
 もう二時間はノンストップで画面に向かっている。
 線画の部分は終わり、私も塗りの作業中である。
 今日中に終わらせなければという焦り。何日もまともに寝ていないという眠気。作業からくる疲労。それらが私たちを確実にむしばんでいき、ついに崩壊の時を迎えた。
 「私は鳥やー、鳥なんやー」
 「美緒さんっ!!しっかりして!自分を強く持って」
 「あははは。もう世界には希望なんてないのに?」
 「ばかたれー!」
 時恵は二つに折った少年誌で、私を殴った。
 「うぅ、親父にも殴られたことないのに…。ふう、ちょっと、外の空気吸おう。ねっ、このままじゃ、またオカシクなる」
 修羅場になるといつもこうだ。
 ドーピングに次ぐドーピング、主食は片手で食べれるスナック菓子。休憩と言えば、水分補給と、マウスをウェットティッシュで拭くぐらいだ。
 「あと、一枚で終わるよ美緒さん、もう少しだ!」
 「私はあと二枚・・・と半分」
 「じゃあ、あとがきとかまえがきのコメント記入するよ?挿絵はこっちでやっちゃっていいでしょ?」
 「ものすごく助かる。ちょっと一服させてください・・・」
 窓を空け、ものすごく冷たい風が流れ込んでくる。この寒気でも、睡魔は去ってはくれないみたいだ。
 煙草を吸いながら、栄養ドリンクでドーピングをし、気合いを入れなおす。
 明日は有給を使って休みを取れた。今日終わらして、サクッと寝よう。
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