腐女子ものがたり
 分厚い眼鏡を拭いて、席に座ると、ふと今回の原稿を思い返した。
 最初はキャラクターのカップリングで揉めた。
 私はリョウマが好きだが、時恵は富士というキャラクターが好きなので、今回のカップリングには不服だった。
 次に、ストーリーについて、あーだこーだ騒いだ。
 深夜から朝方にかけて、ファミレスで話し合うこと三回(人目なんて気にしてませんがなにか?)、ようやく決まったのが二週間前。
 ダッシュで下書きを書き終わらした事。
 もう、下書きなのでメチャクチャ荒い。もう頭が沸騰していたのかもしれない。
 そして、実際にスキャナーで下書きを取り込み、キャラクターをPCで描き始めた事。
 さすがに焦っていた。もう期間がないこと。仕事も忙しくなってきたこと。あとはクリスマスのこと、これは後々説明しましょう。とにかく、考えること、やることが多くて、目が回りそうだった。
 で、今。
 目が回ってます。
 いや、さっきまで目が回ってました。
 あとは正味、二枚だけ。これが終わればベッドという天国が待っている。
 「時恵、終わりそう?」
 「おうっ、後はこのページのトーンだけだぜー、ウヒャー!」
 「…そうですか…」
 ナチュラルハイにずーっと入り続けていられる人間を私は知らない。
 この子を除いて。
 諦めと感嘆の溜め息をもらすと、私は真面目に手を動かし始めた。
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