腐女子ものがたり
 「いらっしゃいませー」
 元気のいい男子店員が、笑顔で声をかける。
 喫煙席、二名で席を案内される。
 きっと、顔は覚えられていることだろう。
 ここ二か月、コンビニ、ジョンソン、ダニーズのローテーションである。
 「なぁ、美緒さんよ、あの男の店員さ」
 席に着くなり、時恵が店員の方を睨んでつぶやいた。
 「うん」
 「絶対、この店の店長と出来てるよね」
 ちなみにこの店の店長は、男だ。
 「うん、店長がコミュニケーションの取り方をあからさまに変えてるよね」
 「そう、それに毎日いるし。普通、バイトの人って、シフト削られるよね?」
 「ねぇ」
 「うーん、バイトくん×店長だね」
 「うん、間違っても店長×バイトじゃないね」
 ちなみに○○×□□はカップリングのことで、前者が攻め、後者が受けとなる。したがって、□□×○○では意味が大きく違う。
 攻めとか受けとか分からない人は、どうかそのままの君でいてほしい。
 「店長はきっと、さそい受けだからね」
 「うん」
 「あのバイトくんが仕事終わって、着替えていると、店長が入ってきて…」
 「俺、実は・・・」
 「むはー」
 「きゃー」
 という妄想からの悦を一通り楽しむと、ようやく一息ついた。
 私たち腐女子は、何にでも掛算をして楽しむことができる。いや、楽しんでしまう。末期症状になると、目に入るものすべてで掛算ができるようになっている。
 ソムリエナイフとワインのコルクで掛算したときには、流石に自分でどうかと思った。
 「美緒さん、注文ボタンを押してもよろしいのか?」
 「よろしく~」
 席に着いてから二十分、私たちはようやく注文を終えることができた。
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