腐女子ものがたり
 「余は満腹ぞよ」
 食べ終わるとともに椅子に寄り掛かり、足を投げ出す時恵。
 「それはよかったねー」
 と、棒読みで答えといた。
 「時恵さんさぁ、ちいと話しにのって欲しいんでさぁ」
 「おっ、沖田口調だねぇ」
 とあるキャラクターの口調を真似したのを分かってくれたらしい。
 「時恵もバカ王子じゃないかぃ。部屋の片付け終わったら、あさっての準備しりてぇんで」
 「うーん、今までの既刊は三種くらいでいいよね。で、新刊一冊で。後は…」
 そう、私たちは、あさってにイベント(即売会)を、先程の修羅場の原因とは別に控えており、その準備もしなくてはならないのだ。
 「何処のサークルを回るか?だな」
 イベントとは私たち同人サークルが一同に会し、同人誌を売る展示会だ。まぁイメージはフリーマーケットが分かりやすいかな?
 机で区切られた、各ブースで各々の商品を出す。
 「そう、そこ。挨拶とかもしなきゃだし。朝にパッと回れればいーけど…。時恵、島買い(一種の大人買い)する?」
 「今回はザッと見てから決めたいなぁ、買いたいとこは決まってるけどな」
 「うん、なら今回は私回る。昼交替で」
 「んじゃあ、回るとこマークしとくからヨロ!」
 イベントは同じ趣味を持つ人間たちが集まる場だ。
 知り合いが多数いる時もある。
 リアルの知り合いだろうが、バーチャルの知り合いだろうが、だ。
 だから暗黙のルールみたいのもあるし、きちんと主催側が決めたルールもある。
 挨拶回りはルールというより、社会人としても常識だ。
 後は、新刊を交換しあったり。これは絶対というわけではないが。
 「なぁ、今回はギャグ本じゃん。成年誌は?」
 「いや、全年齢ブースだから売れない。何度も言ったでしょ」
 「言ったっけか?」
 この子はホントに、こーゆー所が適当で困る。
 今回の本は、時恵が主導でやったのだが、最初から全年齢版にしようと決めたが、下書きをみたら、ド成年誌でびっくりした。
 いつも、私の予想より、右斜め上をいく女、時恵。
 一回、池袋の西口と東口を間違えた揚句、「迷った」のメール一文の後、必死で探す私を放置し、会場に着いていた時は殴ろうかと思った。
 だから、イベント前夜は私のウチに捕獲しておかねばならない。
< 9 / 12 >

この作品をシェア

pagetop