足跡
リビングに入ると既に自分の分のアイスを確保した千晶は、ソファに座って携帯をいじっていた。
武蔵は俺の姿を確認するとしっぽを振りながら、俺の足元でジタバタと動いていた。
俺はその武蔵を抱きながら、
「あき、ちかは?」

「あん?…風呂。」

「はぁ?だから携帯出なかったのか。」

「てか紘兄、あきとちか姉間違ったっしょ?」

「お前たちの声似てるからな。」


千晶は俺らの9歳下だ。
千晶は自分のことを『あき』と呼ぶ。
俺のことは『紘兄』、千景のことは『ちか姉』と呼ぶ。
俺は千晶のことは『あき』って呼ぶし、千景のこともだいたいは『ちか』って言う。

千晶は俺と千景がいつも一緒にいたのと、俺たちと歳が離れているせいかわからないが、俺のことを本当の自分のお兄ちゃんだと思っていたらしい。
小学校に上がった時に友達に
「ちあきちゃん兄弟いるの?」
と聞かれて
「お兄ちゃんとお姉ちゃんがいる」
と答えたらしい。

千景と千晶の母ちゃんは千晶を生んでから半年で仕事に復帰した。
それからはずっとうちの母ちゃんが千晶の面倒をみていたし、小学校に上がってからも放課後は毎日家に来ていた。
姉ちゃんや俺たちと歳が離れているせいもあって、千晶を預かる時にうちの母ちゃんは
「この年でもう一度子育てができるなんて!!」
と喜んだらしい。

それに千晶は自分の父親とあまり一緒に過ごしたことがない。
だからうちの親父を本当の父親のように思っている。
うちの両親もそんな千晶のことを自分たちの娘のように可愛がっている。

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