足跡
千景の母ちゃんは働いていたから、子どもの頃は千景は毎日に家に来て、2コ上の姉ちゃんと3人でよく遊んでいた。

俺らが小学3年生になると千景に妹ができた。
それが千晶で、千晶が生まれてから半年くらいはさすがに千景の母ちゃんも産休で休んでいたからその時は俺が千景の家に行っていた。
そしてちょうどその頃から俺は剣道を、千景は新体操をそれぞれ習い始めた。他にも一緒にピアノ、水泳、英会話教室に通った。
俺はピアノが意外と楽しかったし、英会話も好きだったから小学校を卒業するまで続けた。
おかげで中学に入学してからの英語の授業も苦じゃなかった。それに合唱コンクールでは伴奏なんかもやったりした。
剣道もまあまあ楽しかった。
逆に千景はピアノも水泳も英会話もあまり長くは続かなかった。ピアノも水泳もそこそこはできたみたいだけど、英語に関しては苦手だったみたいだ。
その代わり、新体操だけは向いていたみたいで、中学で新体操部に入部すると、都大会とか結構大きい大会まで進んでいた。

中学生になった頃から千景と姉ちゃんは2人きりで喋りたがるようになった。
俺は何となく女同士の方がいいんだろうなと察して、特に仲間に入ることはしなかった。



千景の父親は俺ら小学6年生になった頃から全く姿を見なくなった。と、言っても何の仕事をしていたかは忘れたけど、元々すごい忙しい人でほとんど家に帰ってくることはなかった。だから俺も数える程しか会ったことがなかった。
それでも、記憶の片隅にある千景の父ちゃんは、スラッとしていて背が高くて、いつも綺麗な格好をしていた。ちょっと困ったように笑う顔が千景と似ていた…気がする。

その忙しいという意味がどっちなのかはわからないけど、後からそういう意味だったんだとわかった。
千景は知らないだろうが、その頃は千景の母ちゃんはよく夜中に家に来ては泣いていた。それをうちの母ちゃんは宥めていた。

子どもながらに女の人が2人きりの時は男はなるべく間に入らない方がいいと思っていたんだと思う。

< 3 / 58 >

この作品をシェア

pagetop