足跡
俺はさっさとシャワーを浴びて、バスタオルを腰に巻いて部屋へ戻った。
すると、千景はベッドにうつ伏せの状態で軽く寝息を立てながら寝ていた。

俺はさっき千景が座ったように、千景に背を向けてベッドの端に座った、なるべく千景を起こさないようにして。

するとベッドの横のソファに目がいった。
そこには、あまり綺麗とはいえ言えないが、きちんとたたまれた千景と俺の洋服が並んで置かれていた。

そしてそのまま千景の隣に横になった。

するといきなり、
「髪の毛ちゃんと拭きなよ。」
と千景が言ってきた。

「ビビった~。起きてたの?」

「うん。髪。」

「あぁ。」
そう答えて体を起こした。
「髪…伸びたね。」

「うん。そろそろ切りてぇな。」

そう言って、千景が使っていたタオルで頭をゴシゴシと拭いた。

「それ人が使ったタオルじゃん…?」

「別によくね?」

「紘平って変なところで細かいけど、意外とどうでもいいよね、大雑把。」

「O型だからね~」

そう言って、少しだけ髪も乾いたので再びベッドに横になった。


俺はさっきまでの性欲はどこに行ってしまったのか、今度は睡魔が襲ってきた。


「…会社辞めたいなぁ。」
突然、千景の方から言ってきた。

「えっ?何で?」
俺はちょっとだけ驚いて、眠気も吹っ飛んだ。

「う~ん…なんかね。」

「会社の人もいい人なんだろ?給料も悪くないじゃん。」

「そうなんだけどね~転職も悪くないかな~って。」

「ふ~ん。」

「興味なさそうだね。」

「違うよ。ちかがそんな事考えてたのが意外だったから…」

千景はそのまま黙ってしまった。

本当に意外だった。
話を聞く限り、給料も条件も悪くないみたいだったからそんな風に思っていたなんて。
でも、短大でデザインの勉強をした千景にとって、今の事務の仕事ってのはつまらないのかもしれない。

それでも俺が知る限りは、千景はたまには愚痴を言うときもあったけど、楽しそうに仕事をしていた。
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