足跡
なんとなく重苦しい空気が漂った。

どれくらいの時間が過ぎたのか。
おそらくほんの数分だったと思うけど、俺には何十時間にも感じられた。
すると、千景が突然仰向けに寝ていた俺にまたがり、キスをしてきた。
何度も何度も。

俺は動揺を必死に隠しながら
「ちか?どうしたの?積極的じゃん?」
と、いかにも余裕ぶっているように聞いてみた。
千景は俺の質問には全く聞く耳を持たず、ひたすらキスを続けた。

千景のキスの嵐を浴び、覚めてしまった感覚が少しずつ蘇ってきた。

俺はキスをしながら千景のバスローブを脱がして、細い肩を掴んでだ。
そしてそのまま押し倒し、千景に跨り、キスを続けた。

千景はとても強い女性だと思う。
でも、こうやって愛し合っている時には、壊れてしまいそうな、潰れてしまいそうな弱い女性になってしまう。
繊細という表情が適切かはわからないけど、それでいて時折予測不能な大胆な女性になる。
俺は毎回そんな千景を壊してしまいたいと思ってしまう。
どこからか湧き出てくる千景を求めてしまう罪悪感と、独り占めしたくなる幼い独占欲。そしてそれ以上に、千景を愛してしまう自分に対する、母性愛のような説明のつかない感情。

その度に、俺は醜い人間だと感じてしまう。

< 40 / 58 >

この作品をシェア

pagetop