足跡
俺たちはその日は散々求め合い、そして愛し合った。

それからは相変わらずな日々だった。
少し早く帰れる日は千景の家に泊まったし、仕事の方も例のモデルのCMの話がどんどん決まっていった。


「あ~あかんあかん!!ほんまあかんわぁ~」

その日は終電を逃し、特にやることはなかったのだが会社に泊まることにした。

突然、石黒が大袈裟に言ってきた。

「どうしたんすかぁ?」

高原はあれから彼女から連絡があり、きちんと別れたらしい。

「あかんあかん!!」

携帯を見ながらあかんあかん!!と連呼している。

「ほんまかいなぁ~」

「だから何なんだよ!!あかんあかんうるせえな。」

俺は抹茶のアイスを食べながら尋ねた。

「もっちゃんアイス食べてる場合ちゃうで!!あのモデル、明日写真週刊誌にでるで。」

「それの何があかんの?」

「せやから~不倫やって!!国会議員と!!」

「で?」

「あかんやろ~写真バッチリ撮られて、不倫やで?しかも政治家の先生やで?イメージ悪いやんか~」

「…まじかよ。」

一瞬血の気が引いて、脱力した。
高原はいまいち事態が飲み込めていないようだ。
「じゃああれどうすんだよ?」

「別の演者見つけるか、延期やろうね。」

「今からかよ~。ったく、何やってんだよ!!」

「ほんまあかんやろ~」

案の定、翌日の芸能ニュースは例の不倫報道で持ちきりだった。
そしてその影響はうちの会社にも及んでいた。
結局、その日は1日中会議で潰れてしまい、例のモデルの採用はなくなった。
その代わりに、改めてイチから作り直しと言うことで、候補のモデルを探すことになった。


話が全て振り出しに戻った。

夏休みの話もなくなり、慌ただしい日々が続いた。

しかし、予想に反してすぐに代わりのモデルは決まり、順調に話が進んだ。
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