足跡
そんな会話をしながら、待ち合わせの店に着いた。
母ちゃんと親父はすでに到着しており、先に席に案内されていた。

店内は落ち着いた雰囲気で、Jazzが流れる、イタリアンレストランで、俺には少し敷居の高い感じがした。

姉ちゃんのいう綺麗な格好の意味が理解できた。

「ごめんごめん。」
そう言って、俺と姉ちゃんも案内された席に着いた。
この日は、昼間は母ちゃんと親父は歌舞伎を鑑賞して、買い物をしたりデートを楽しんで来たらしい。

2人ともすっかり恋人同士のように、目を合わせて笑ったりニコニコとしていた。
それはまるで、大人になりきれていないような、少年と少女のようだった。

俺らはワインを頼み、あとは予約をしておいたコース料理が運ばれて来るのを待った。


うちの親父は見た目はどこにでもいる普通のおっさんで、趣味はゴルフ。
ただ、聞く音楽だけはやたら若くて、最新の曲をいつも聴きながら通勤している。

区役所勤めということもあってか、真面目な性格で、あまり感情を表に出すことはない。

そして母ちゃんの誕生日と結婚記念日だけは毎年必ず外で祝っている。
そういう所だけはマメだ。
プレゼントも毎年欠かさない。

そして俺はこの人には怒られた記憶がない。

うちでは怒るのは母ちゃんの役目だったから。

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