足跡
俺はそのままリビングで親父と武蔵と一緒にテレビを見たり、ゴロゴロしたりして過ごした。

親父と2人なのもすごい久しぶりな気がした。
親父も老けたな。

「紘平。」

俺が親父を見ていたのがバレたかと思った。
いきなり名前を呼ばれてびっくりした。

「何?」

「お前、ちかちゃんはどうするんだ?」

「どうするんだって?」

「いずれは結婚するんだろう?」

親父とこんな話をするのは正直、恥ずかしい。

「そりゃあねぇ…このままいったらそうなるだろうねぇ」

「そうか。父さんは大賛成だからな。ちかちゃんがお嫁に来ることも、あきちゃんと親戚になることも。なっ?武蔵?」

俺が黙っていると、

「それよりもお姉ちゃんの方が先かな?」

と言ってこっちを見た。

何か知らないけど、涙が出そうになった。

『ちかちゃんはどうするんだ?』

今まで25年間親父に怒られたこともなければ、俺の中で親父が怖い存在と思ったことはなかった。
けれど、『どうするんだ?』って聞かれた時、初めて親父を怖いと思った。

今まではよく
「どうなの?」と、現状を聞いてくることはあったけど、今の明らかに
「どうするんだ?」とこれからのことを聞いてきた。

親父なり心配なのもあるだろうし、年齢的にもそろそろ将来のことを考えた方がいいと暗示したのだろう。


楽しそうに、武蔵と遊んでいる親父に、小さな声で、
「ちゃんと考えてるよ。」
と言った。
親父はそのまま武蔵に向かって
「そうか。」
と答えた。
< 47 / 58 >

この作品をシェア

pagetop