足跡

「そういえばさぁ～守屋っていただろ？あの眼鏡かけた内田と一緒の部活だった。」

俺は忘れかけていたその名前を聞いて、ジョッキを持ったまま固まってしまった。

「あぁ～俺同じクラスになったことないけど、三年の夏休み明けから不登校になった奴だよな？」
加藤がゆっくりと思い出しながら言った。

「そうそう。あいつ俺の高校の通信制行ってたんだけど、高校入った途端、ギャルになっちゃって。」

「高校デビュー？」

「そう!!それで全然きづかなかったんだけど、卒業式にお腹おっきくてさ!!」

「あら～できちゃった？」

「そう!!しかも相手、一個下のヤンキーで、今５人目妊娠中!!」

「ひゃ～守屋が!?ないわ～。てか25で５人とか。ないない。有り得ない。てか旦那、避妊しろよ!!」

みんなが勝手に色々言っている間、俺は一言も喋らなかった。
正確には喋れなかった。
ジョッキを持ったまま固まってしまい、そのまま目の前が真っ白になりそうだった。

「紘平？」

名前を呼ばれて、我に返り、少し焦って返事をしてしまった。
「何!?」

「大丈夫？何か飲む？」

俺のジョッキに何も入っていなかったので、ヒロシが聞いてきた？

「あぁ。じゃあ生。」

正直、飲むものなんて何でも良かった。
ただ、その話題から早く離れて欲しかった。

「紘平、意外に酒強いよな。そういえばさぁ～」
加藤はそう言って、俺らが初めて酒を飲んだ時の思い出話を始めた。

俺は安心した。
そして今まで呼吸をするのを忘れていたみたいで、久しぶりに息を吸った感覚になった。

そしてまた思い出したかのように、話題は俺と千景の話になった。

「でさぁ～結局、お前ら結婚するんだろ？結婚式呼んでくれよな。」
充はだいぶ酒が進み、真っ赤な顔で言ってきた。
またかよ。
どいつもこいつも結婚結婚って。

「その内な。まだしないけど、いずれするから。」

正直、このことに関してはほっておいてほしかった。
俺たちですら、具体的に結婚の話題がでたことすらないのに、周りで勝手にやんややんやうっとうしかった。