足跡
「お母さんも何か気づかない?」

そう言って、母ちゃんが会話にいきなり入ってきた。

「えっ?」

ぶっちゃけ、気づかない?と言われても全くわからない。

「…わかんね。」

「あ~ら!!ちかちゃんは気付いてお母さんは気付かないのね!!」

俺にコーヒーを渡しながら、呆れたように言ってきた。

「ごめんごめん。だって本当にわかんなかったから。何?どうした?」

「昨日ちかちゃんのママとエステとネイルサロン行ってきたの!!顔ツルツルでしょ?」

と自慢気に言って、爪を見せながら自分の頬を触っていた。
爪は綺麗に整えられて、先に薄いピンクのラメ入りのマニキュアが塗られていた。

「あぁ~そう言えばそうかもね。てかそれ爪どうすんの?主婦がそんなのしてていいの?」

最後の一言が余計だったようだ。

「別にお母さんだって爪くらい綺麗にしたっていいでしょう!!」と言ってリビングから出て行った。

俺は本当に千景以外の女性に対して、気が利かないと言うか、お世辞のひとつも言えない。
それは母ちゃんや姉ちゃんに対しても言える。

「駄目だよ~あんなこと言っちゃあ。」
俺らのやりとりを笑いながら見ていた千景が言ってきた。

「何でもいいから誉めてやらないと。」

「でも、おばさんがネイルをねぇ。」

そう言うと、抹茶のお菓子を手渡された。

千景は
「昨日みんなで何の話したの?」
と昨日の俺らの飲み会が気になっていたみたいだ。

「何って、色々。仕事の話とか思い出話とか。酒入っちゃってるからずっと同じ話してんの、みんなで。でもさ、雄一だけ来れなくてさ。」

俺は千景に昨日の話をしたら、再び色々な思い出が蘇り、楽しくなってしまった。
千景はそれを横でずっと笑いながら聞いていた。

「いいなぁ~あたしも行きたかった!!」

「女子はダメだよ、引くよ?最後なんて下ネタばっかだもん。」

「酔っ払いの下ネタとか最悪~。」

「しょうがないじゃん。だって俺ら男の子だもん。千景もこの前、中学の集まりあったんじゃなかったの?」

そう聞くと、それまで笑っていたのに少しつまらなそうな表情になった。

「う~ん。あったんだけどさぁ、みんな仕事とか彼氏とかの愚痴大会になっちゃって。」
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