足跡
女子ってめんどくさ。と言って、母ちゃんが持ってきた葡萄を食べ始めた。

俺はそれ以上聞くのは止めた。
自分ばかり楽しそうに話してしまって悪かったと思った。

「そう言えば、あき合宿どこ行ったの?てか剣道部がこんな時期に合宿なんてしないと思うんだけど…」

正直、そんなに気にはならなかったが、話題が昨日の飲み会以外は特に見つからなかったのできいてみた。

「えっ?何、あきそんなこと言ってたの!?」

千景はえらく驚いた。
俺まずいこと言ったか?
「いや、親父がそう言ってたから…」

そう言うと、
「あ~なるほど~。あいつもやるなぁ。」
と妹に対して感心しだした。
俺は全く意味がわからず
「何?合宿じゃないの?」
と聞いた。

「そんなの嘘に決まってんでしょう。旅行に行ったの。」

「旅行って…」

俺はわかってしまった。
そして母ちゃんに聞こえたらまずいと思って小声で千景に尋ねた。

「旅行って、もしかして男と?」

本当はすごくびっくりして、大声を出しそうになってしまったが、そこはぐっと抑えた。

「さすが、紘平!!賢いな。」
千景は葡萄を食べながら、少し小馬鹿にした感じで言った。

「あいつ…!!有り得ねぇ。嘘ついて男と旅行とか…」

俺は驚きを通り越して、怒りと悲しみに変わってしまった。
怒りは嘘をついことに対する気持ちで悲しみは娘をとられてしまったような、父親のような気持ちだ。

「別にいいじゃない。」
千景は妹が嘘をついて男と旅行に行っているというのに、平然としている。

「よかねぇよ!!だいたい、男と旅行って…あき、まだ高1だろ?」

って…何だか本当に父親みてえだな。

「あのさぁ、あたしたちだって高1の時にはもう付き合ってたじゃん。人のこと言えないよ。それに別にあきに彼氏がいたっておかしくないんだし、旅行だって二人きりじゃなくて何人かで行ってるの!!」

千景は呆れたように、そして俺を説得するように言ってきた。
その勢いに俺は何も言い返せなかった。
< 54 / 58 >

この作品をシェア

pagetop