足跡
「でも、あきも合宿と嘘つくとはね~きっとおじさんを心配させないようにしたんだね。」

俺が黙っていると、付け加えてこう言った。

「親父、あきが男と旅行行ったなんて聞いたらきっと寝込むよ。お嫁に行くとか言ったら、誰よりも泣きそうだな。」

それは俺のことだ。それを親父に置き換えて言った。

千晶が彼氏ねぇ、旅行ねぇ…
千晶は確かに千景に似ていて、整った顔立ちで性格も明るいしモテる…と思う。
ただ、背が高いのと、ずっと剣道をやっていたせいか、千景と比べると少し男っぽい印象だ。
そして何より、俺にとっては妹のような存在で、うちの家族にとっては娘のような存在だ。
だから、この一件にかんしてはかなり衝撃的だった。

たぶん、千晶が親父に武蔵を預けたのは、嘘をついたことの罪悪感から少しでも逃れようとしたのだろう。
今回のことは嘘をついたのは良くないけど、よしとしよう。親父に寝込まれたら大変だしな。

「紘平、娘ができたら大変そぉ~」
千景はケタケタ笑いながら言ってきた。

「そりゃ娘ができたら厳しくしますよ。男と旅行なんて絶対に許さないね。」

「ふふっ。面倒臭そ~」

何だか、こんな話をしたのは初めてかもしれない。
子どもとか。
つまり結婚ってこと?
子どもねぇ…

「今日、どうするの?」
俺は千晶のことも含め、結婚や子どものことはなるべく考えないようにして、千景に尋ねた。

「どうしよっかなぁ。」

「どっか行く?」

「てか、あたしいいから紘平髪切りに行った方がいいと思うよ。」

「あぁ。そうだな。」

そう言ってその日の夕方に美容室を予約し、千景とそれまでうちで一緒に過ごした。
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