足跡
千景はメールがあまり好きではないからな。

俺は改札を通る前に電話をかけた。


プルル…

『もしもし!!』

「もしもし…武蔵元気?」

『ハハッ!!お疲れ。今電車?』

千景は電話に出るのがめちゃくちゃ早い。
メールの返信も早い。
短文だからってのもあるけど。

「電車ん中からは電話かけねぇよ。これから乗るとこ。」

『そっかそっか。今日早かったじゃん。家来る?』

「…いいの?10時位になるよ?」

『まだお母さんも帰って来てないし、別にいいよ。』

「わかった。また着く頃連絡する。」

『うん。じゃあね。』

ブチッ。


千景はせっかちだ。
そして最後まで人の話を聞かない。
用件を一方的に伝えて終わり。

それにしても、いつも思う。
千景はエスパーなんじゃないかって。
さっきの会話にしてもそう。

子どもの頃はもっぱら俺の家に来て遊ぶことが多かった。
それは家にはいつも母ちゃんがいたから。
でも年が上がるにつれて、千景の家に居る時間が長くなった。
今も仕事終わってから夜会う時は必ずと言っていいほど、千景の家だ。
いや、必ずは言い過ぎかも知れない。
8割方、千景の家だ。

今日も少し早く帰れることになったから、会いたかった。
あまり遅いとさすがに迷惑だからな。

別に“会いたい”なんて言っていないのに。

全てを悟られているような気さえする。
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