こぼれ落ちた物語の雫【詩集】
物語の欠片
水面に浮かぶのは
真っ赤な花びらが
空に向かっておちてゆく
少年は湖の淵にたち
そっと中をのぞきこむ
この湖には彼女が眠っている
ぶくぶくと泡をはきながら沈んでいく狐の面が
ころころと鈴の音色で笑っている
―あぁ、もうすぐ明日が終わり今日が来る。今日になったら彼女は消えてしまうだろう。彼女のいない今日がくる。
水面に移る月が笑っている
りんりんと風の音色で笑っている
空を見上げると
そこには今日と同じ色をした月がいた
湖の中の少年が彼女の顔で笑った
―手を伸ばしたら、彼女に触れることが出来るのだろうか。
少年は手を伸ばしそっと彼女の頬にふれた
その瞬間、鏡はくだけ彼女も姿を消した
同時にすべての音が消失した
一陣の風が夜の湖に吹き
花びらは水面に波紋をえがいた
月が明日と同じ色で笑っている
そして、そこには誰もいなかった