F
立ち聞きがいけないなんてことは分かっている。
けれど廊下まで聞こえるような音量で話す方も
悪いんじゃないだろうか。
私は訪ねてきた親戚夫婦がいる和室を静かに離れ、
二階に上がると自分の部屋に駆け込んだ。
私が聞いていたことの何が
“本当のこと”じゃなかったのだろうか。
考えてみると私にはそれを確かめる術がひとつもないのだ。
この家に引き取られたのはまだ1歳になったばかりの時。
その頃の記憶、ましてやそれ以前の思い出なんて私にはない。
考えれば考えるほど泥沼。
指先から、震えが止まらなくなった。
偶然聞いてしまっただけの話に、私はどうしてこんなに――
どうしてこんなに、動揺しているんだろう?