素直になれたら
1.paradox
そして私達は二人になった。
「美嘉、あぁ〜ん」
とか、翔が妙に甘えた声を出しながら口を開けていた。
みっともない…とか内心思ったものの、翔のその情けない顔が妙に可愛く思えて、私はぶっきらぼうに自分の前の食いかけの餡蜜を、大ぶりにすくって翔の口に突っ込んだ。
翔は多分、私に素っ気ない態度をとられると思ったらしく、少しキョトンとした顔になったが、嬉しそうに口をモゴモゴさせた。
翔は普段からおどけた馬鹿面はしているけど、妙に余裕な表情で、いつも隙がないように思える。
ただ、たまに垣間見せるアホ面が、間抜けで隙だらけな気がして、好き。
でもその行為そのものが、私の下らないプライドのせいで喧嘩沙汰になったのだ。
ちょうどそのタイミング、ふと窓の外を見ると、同じクラスの男子二人がニヤケながらこちらを観察していた。
……しまった!
そう思った。
そしてあろう事か店内にズカズカ入り込んで来て、
「なにしてんだよ二人〜、ラヴラヴこいて〜〜」
だの、
「美嘉ちゃんってそうゆう事するタイプだったんだぁ〜」
などとはやし立てられた事が、ヤケに恥ずかしくなった。
「羨ましいだろお前ら〜」
などと、翔は何食わぬ顔している横で、私は羞恥心丸出しで逃げ出したかった。
そしてやけに苛立ってきた。
今思えばそんな下らない事、澄まし顔でやり過ごせると思えるけど、その時の私は、見られなくないとこを見られた感が憎悪と共に、グルグル頭上を巡らせてしまっていた。
そんな事思ってる私が何よりもみっともない事も気付かず、醜い姿を晒し出していた…