番外編 芦原大成の災難
受難告知
『っし、カンペキ』
芦原大成は鏡の前に立ち、自分の服装をチェックした。
グレイ地に白のストライプが入った細身のスーツ。
自分が持っているスーツの中では一番高くて一番派手なものだ。
それに今日はノーネクタイで。
髪もワックスで今風にボリュウムを出し、テレビCMで見た香料スプレーも満遍なく振り掛けた。
普段の仕事とは力の入れ方がまったく違う。
それもその筈。
今日は半年ぶりの合コンだった。
学生時代はそれなりに参加していたが、就職してその回数は激減。
お蔭で二十七歳にして彼女いない歴三年目を更新してしまった。
それもこれも仕事の所為だ。
何を隠そう、芦原大成は愛の為に悪と闘う刑事である。
日々、凶悪事件を追い掛け、徹夜三日目パンツも三日目という激務をこなす。
その結果、就職して最初の頃は頻繁に誘われていた合コンも、仕事が忙しくなるにつれドタキャン、もしくは緊急呼び出しが相次ぎ、次第に誘い自体が減っていったのである。
故に彼は犯罪を憎む。
皆が(俺が)安心して合コンできるために!
というわけで、今日は友人にしつこく頼み込んでセッティングしてもらい、自分は二ヵ月前から周囲に公言してどうにか取得した有給休暇で望む合コンだった。
失敗は許されない。
地下鉄に乗って待ち合わせの店に向かう間、芦原の頭の中ではずっと『ミッションインポッシブル』のテーマが流れていた。