番外編 芦原大成の災難
芦原は慌てトイレに駆け込み電話に出た。
『はい、芦原っす』
『おう、俺だ。神山だ。
芦原、お前今どこだ?』
神山は一方的に話しだした。
神山は芦原の先輩刑事で、二人でコンビを組んでいる。
三十七歳、独身、バツイチ、ヤクザ顔の先輩だ。
人使いは荒いが、捜査の腕はピカイチである。
その神山が電話してきたとなると出ないわけにはいかない。
後で半殺しにされるのは目に見えている。
『どこって、繁華街のオリーブっていうレストランっすけど?』
『でかしたっ』
………でかした?
『おい、今周りに誰かいるか?』
『いや、トイレっす』
『そうか。いいか、よく聞いてくれ。
実はな、先週拳銃の不法所持で逮捕した男がな、取引相手と会う約束になってんだよ』
先週逮捕した男と言えば、拳銃を所持し、インターネットで売り捌いていたとして、銃刀法違反で逮捕されている。
目下入手ルートを追及中……だったはず。
『その取引相手ってのが、拳銃の卸し屋なんだよ』
『まさか、先輩。その取引場所ってもしかして……』
『お前がいる店だよ。
そういうわけでだなぁ…』
……嫌な予感が的中した。
『ちょっ、ちょちょちょっと待ってくださいよ、先輩!』
芦原は慌てて言った。
今日だけは仕事に巻き込まれるのは勘弁してほしい。
『先輩、俺今日は有給休暇なんす』
『あぁ?』
『しかも今、半年ぶりの合コンの真っ最中なんすよ』
だから勘弁してください。
芦原は心の中で念じた。
『おぅ。だからな、俺たちが駆け付けるまで見張っててくれ。店内の様子が知りたい。
なんせ相手は拳銃持ってるからな。慎重にいかんとな。
携帯にイヤホン繋いでくれ。三分後に掛けなおす』
そう言って神山は一方的に電話を切った。
『マジかよ〜』
芦原はガックリ肩を落とした。