奴のとなり



それを伝えるよりも、
酸素を肺に送ることのほうが大切で、
あたしは声を出すのを諦めた。



やっと止まったと思ったら、
例の溜まり場で、ナナミさんが


「いらっしゃい」


なんて笑ってる。



あたし達の異常な雰囲気にも物ともしなかった。



奴はどかっと窓際のテーブル席に座ると、
腕と足を組んだ。



あたしはまだドアの前に立っていて、


「桜ちゃんそこは寒いから」


と手招きしてくれた。



カウンター席に腰かけ、
あたしは奴の様子を伺う。



「あいつ機嫌悪いね」



ナナミさんは心配しているというよりも、
楽しんでいるような雰囲気。



頷いてみせると、さらに楽しそうに笑われた。



絶対楽しんでる・・・。



彼の顔を見てそう思った。










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