奴のとなり



「紛らわしいやつ」



「うん?」



「気に入ったんなら泣くなよ、バカな奴」



「バカって…。世の中には嬉し泣きも存在するのですよ、桃矢くん」



「嬉し泣き」



ふと、彼の目が優しく緩む。
見たこともないような貴重な顔に、あたしの顔も緩む。



ただ何も話さない静かな時間がゆっくり流れて、奴の右手が頬を包む。



暖かい



それからあたしの長い髪をそっと掬う。
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