奴のとなり
少しずつ深くなるキスに、あたしは水深くに潜るように溺れた。
酸素が欲しいけど、もっと深く潜りたい。
相反する気持ちがぶつかりながら、あたしは奴の胸に置いた手をギュッと握りしめる。
不思議な気持ちが、説明できない気持ちが溢れてきて、訳も分からず泣きたくなる。
名前のない気持ちが心を支配して、名前が分かれば楽になれるのに。
離れて酸素を貪る。
顔がこれでもかって程熱くなってて、奴の胸に沈みこんだ。
背中に回る手に力が込められる。
「桜」
大好きな優しい声。
その声で、優しく手に握ってたものを取り出す。
それから、あたしの小指を摘むと指輪を通した。
きらりと光った指輪。
はめた途端に手が輝いて見えて、あたしはうっとり手を眺めた。