奴のとなり
キサラギさんはやっぱり今日もお人形さんみたいで、綺麗な黒髪をくるくるさせていた。
あたしを見てにっこり微笑むと、「お久しぶりです。少しいい?」と、花のような笑顔を見せた。
頷くと、彼女は「中庭でもいい?」と歩き出した。
中庭はH型の校舎の中心にあって四方を壁に囲まれた小さな森の様になっていた。
所々にベンチが置かれ、人の姿はない。
「連絡ちょうだいって言ったのに…まぁ、連絡がないってことは上手くいったってことだよね?」
いきなり言われたことが、何のことなのか思い出すのに時間がかかった。
「あっ!」
そうだった。
皐月さんの所で、彼女は確かに"連絡ちょうだいね"って言ってた。
作戦の報告をしてほしいって。
今更だけど頭からすっ飛んでた。
目をしばたかせてしると、キサラギは小さく吹き出し、「上手くいったならいいの、連絡なんて」と笑う。
そもそも彼女の意図が謎で、作戦もはっきり理解してなかったから、何とも報告しずらいんだけど…。
何て言えなかった。
「ついに、ついになんだよね?」
期待に目を輝かせて彼女は問う。
「えっと…」
「あんなに可愛さ倍増したんだもん。一樹喜んだでしょ?」
それには頷ける。
あたしの頷きを見て、彼女は自慢げに「だよね!」と、はしゃいだ。
「やっとチャンスが来た〜」
また興奮し始めたキサラギさん。
またしても意味不明なあたし。
何がチャンスなんだろ。
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