奴のとなり
妙に長く感じる廊下がもどかしくて、キサラギさんの姿が見えないのが不安で、あたしはとにかく走りつづける。
さっきまで幸せでいっぱいだったのに、この不安は何なんだろ。
走ってるからなのか、苦しくて軋むような胸を抑えながら、あたしは目的地に辿り着く。
「桃矢くんっ!!」
教室のドアを勢いよく開けると、目に入ったのは、キサラギさんと桃矢くん。
あたしの目には信じがたいものが映っていた。
周囲の視線があたしに集まって、「さくちゃん、ここおらん方がええ」よく知った関西弁が耳に入っては抜けていく。
引っ張られるように連れ出されて、あたしはただ呆然としてた。
「桃矢くん…。キサラギさんと…キスしてた…」
ぽつりぽつりと呟くと、ケイちゃんのあたしの手を握る手に力が籠もる。
「あれは不可抗力や。一樹は何もしてへん」
「あの女…」
ケイちゃんの怒りを含んだ声がぽつりぽつりと前から風に流れてくる。
ずっと遠くで。
「あたしと桃矢くん…さよならなの?」
「そんなわけあるかいっ!何弱ってんねん…。一樹の彼女はさくちゃんなんやから、堂々としとったらええ!!」
何も答えられなくて、あたしはただ歩いていた。
辿り着いた場所は何でかこのタイミングで中庭で、あたしは最悪の偶然を憎く思った。
険しい顔をしてたのか、まさかケイちゃんが空気を読んだのか、「場所変えるか?」って妙に気を使うからむず痒い。
「ここでいい」
俯いたまま、ぽつんと言うと、ケイちゃんはベンチにドカッと腰を下ろした。
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