奴のとなり
「桜が今までの奴らと違うって分かってる」
「今までが今までなだけに怖くなったのかもしれねぇ」
「情けねぇんだけどな」
悲しそうに、自分を責めるように笑う桃矢くんは儚げで、こんなこと思っちゃダメなんだろうけど、綺麗だって思ってしまった。
「ゆっくりでいいよ。あたしも傍にいるんだからね」
「あぁ」
またぎゅっと抱きしめられた。
あたしも腕を体に回す。
このまま時間が止まっちゃえばいいな、とか、この温かい気持ちをため込めたらいいのに、とか考えてた。
この幸せに真っ白なまま浸れたらいいんだけど、頭の中は結構活発に動いてる。
やっぱり漫画みたいにはいかないみたい。
桃矢くんの腕がゆるむのを感じる。
まだ離してほしくないのに。
「桜。勝手なのは分かってる。けど、少し距離置きてぇ」
びっくりしすぎて、心臓が止まるかと思った。
だって、さっきまであんなに幸せだったのに。
永遠なんてものまで感じてたのに。
急に爆弾を投下されたようなかんじ。
「桃矢くん…?」
苦しそうに顔を歪めながら、それでも意志は変わらない。
そんな顔。
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