奴のとなり



「めちゃ恐いけど、いい男なの」



悪戯に皐月は微笑みを浮かべて主人を見る



皐月さんのお眼鏡にかなうのなら、いいオジサマなんだろう



瑠美さんがメニューを広げて、チキンの香草焼きが今日のオススメだと言うから、もちろんそれを注文した



皐月さんは鮭のムニエルを



料理が運ばれてくるまで時間がある



あたしはふわりと立ち上がり、厨房の見えるカウンターに腰掛けた



「とってもいい香りだね」



主人ははっとするように体を反応させると、睨むように視線を投げかける



あたしは臆することなく、頬杖ついたまま華麗な手捌きに夢中になっていた



「あたしが作るとこうはいかないもん」



あたしは自分が作るときのことを事細かく話した



オジサマの視線は料理にあったけど、あたしは話し続ける



聞いていないようで、きちんと聞いてくれてる気がしてたから



一人べらべら話してると、ふいに会話に低い声が割ってはいる



「そりゃ、火がきついんだよ」



顔を上げるとオジサマがこっちをしっかり見ていて、あたしは顔が赤くなるのを感じる



「ちょっとこっち来て見てみな」



顎をふいっと厨房に振ると、あたしは惹きつけられるように足を向ける



オジサマは皐月さんのムニエルを焼こうとフライパンに鮭をのせる














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