奴のとなり



ダンディーなオジサマの素敵な所作に目が離せ無いながらも、鮭はあっさりとムニエルに変わる



「ふぁ〜」



感嘆の声が、気持ち悪い声になった



無意識に



「お嬢ちゃん、面白い子だな」



そう言って、厳つい顔を綻ばせると目を細めてあたしの頭を撫でた



やっぱりこのオジサマ好きだ



でも、頭を撫でられた瞬間、頭の中に奴の姿がよぎった



今は思い出したくない奴



あたしを捉えて離さない奴ら



あたしは零れそうな涙を押しやって、宙を見た



笑顔を作って、皐月さんのもとに戻る



皐月さんは退屈そうに頬杖ついて、



「私を邪険にするのって、桜ちゃんぐらいよ〜」



と拗ねていた



謝りながら運ばれてきた料理にフォークをつける



料理はとっても美味しくて、あたしは食べるたびに「う〜ん!」、「ふぁ〜」と奇声を洩らしていたらしく、皐月さんはその度に吹き出す



迷っていた鮭のムニエルも半分ずつ交換して、お姉ちゃんと過ごすディナーは幸せに満ちて終わった



帰りの車の中、ラジオを聴きながらあたしは少し眠気が襲ってきて、目をこすりながら、ゆらゆらしていた













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