奴のとなり



「離し…てぇ」



もうぐちゃぐちゃ



顔も



心も



知られたくなくて、見られたくなくて、あたしはとにかく顔を上げずにもがく



奴の力に適うわけ無いって思いながら、足を振り上げた



鈍い音と、堪えるような声が廊下に消える



「…ってぇ」



こんな状況なのに、足は見事にお腹にヒットして、奴の腕の力が緩んだ



その隙にあたしは腕から抜け出すと、また逃げる



何なの!?



ずっと連絡してこなかったくせに



人を待たせるようなことしたくせに



「桜っ!」



なんて呼ばないでよ



あたし、ずっと頑張ったのに



1ヵ月近く1人で戦ってたのに



声が迫る



苦しくて、目がかすむ



「桜っ!!」



呼ばないでよ



「来ないでっ!!ずっとほったらかしにしといて何よ!!」



「嫌いっ!!嫌いっ!!大嫌いっ!!!」



喚きながら、前だけ見て走ってた













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