奴のとなり
頭の中がぐるぐるし始めたあたしを、桃矢くんは可笑しそうに目を細めた
「何考えてるか知らねぇけど、そうじゃねぇよ」
「バレてる?」
「さぁな。でも違う」
「うん?」
それだけ言うと、桃矢くんは隣に寝転がった
そしてすぐに、顔をこちらに向ける
「桜も知ってるだろ。俺が無茶ばっかやってたのを。適当ばっかやってたのを。」
「諦めてたこと?」
「……あぁ。最低だってわかってるけど、どうでもよかった。ルールもいつの間にか出来てた」
"抱いたら終わり"
いつか聞いた言葉が頭を過ぎる
桃矢くんは女の子を一度抱いたら、もう二度目はないってこと
だからキサラギさんも、あたしにお色気作戦を持ちかけたわけだ
不安に思わないわけじゃない
桃矢くんとそうなったら終わりなのかって
そりゃお互いにそういう関係だと思ってるわけじゃないけど
その後も続く関係だって自信あるけど
不安は小さくある
考えただけで怖くなるって不安
今までの女の子たちはそれで納得できたのかな
一樹桃矢って名前とブランドを少しの間でも独り占めできただけで満足しちゃったのかな
貪欲なあたしには、できそうもない
もっと、ずっと、出来れば皺クチャになるまで一緒にいたいってワガママを抱えてる
「俺が最低であるにはいいルールだった。便利だった。違うって解ってても不安がないわけじゃねぇ」
珍しく弱気で、不安だと素直に話す桃矢くんが可愛く思えた
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