奴のとなり



初めては想像以上に痛かった



継続的な鈍痛が体の中心からじわじわ染み出るような感じがして、たまに泣きたくなる



嫌な痛みじゃなくて、幸せな痛み



倦怠感は拭えないけど



桃矢くんにまた一歩近づけたと思うと悪くない代償だった



目が覚めるとまだ明け方で、桃矢くんはまだ気持ちよさそうに眠っていた



のそのそと床に落ちているワンピースだけ拾って袖を通すと、窓辺に近づく



窓を開けてベランダに出ると、スリッパが冷たくて、鳥肌がぞわりと広がる



春だって言ってもまだ寒い



町並みを眺めてると、思わず声が洩れた



「きれぇ〜〜…」



何だかいつもの町がキラキラして見える



桃矢くんちマジック?



気持ちが洗われるような気持ちがして、あたしはとにかくこの瞬間を忘れたくなかった



胸にきっちり刻みたい



出来れば脳に刻みたい



ちょっと記憶力には自信ない



体の芯が冷えたのか、小さく体が震え始めて、あたしはベランダから部屋に引き返した



「変態?」



「何だと?」



いつからそこに居たのか、窓枠に凭れて手を組んでる桃矢くん



ストーカー的なものを感じて、昨日の気持ちのまま素直に言ったら睨まれた



「だって…。最初からでしょ」



「窓開いてると、さみんだよ」



「まぁ、そういうことにしとく」



二人笑いながら、リビングに戻ると、ココアが二つ



「甘いもの好き?」



「嫌いじゃねぇけど」



「ふーん」



どうやらあたし用らしい



真新しいココアの袋がキッチンに見えた



冷えた体に、ココアが染みる



まったりしてると、桃矢くんの視線を感じて顔を上げた











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