奴のとなり
あたしの手を引いたまま、桃矢くんが歩き出した
ここは分かれ道で、いつもならさよならをする場所なのに
「桃矢くん?送ってくれるの?」
疑問符が浮かびつつけるあたしの言葉に返答はない
むしろ、おい?みたいな顔して見てくる
次にやってきたのは大きなため息で、
「忘れたんじゃないだろうな」
お怒りの言葉付き
じとっとした目で見られても、思い出せないものは仕方ない
あたしは素直に負けを認めた
「ごめんなさい」
「人の気も知らない奴」
そうため息をつくと、
「今日家行くっつったろ」
と言われて思い出した
珍しく桃矢くんから家に行きたいと言い出してたこと
驚いたくせに忘れるなんて、馬鹿だと思われても仕方ないよね
桃矢くんは家に着くまで不機嫌そうだった
でも手は繋いだまま
玄関を開けると、お母さんの靴があって、そういえばお母さん居る日に行くって言ってた桃矢くんの言葉を思い出した
「お母さんに会いたかったの?」
「まぁな」
そう言って、家主の娘なあたしより先に歩く
手は繋がってる
心なしか手が緊張してる気がする
顔は見えないから表情まではわからないんだけど
リビングのドアを開けると、お母さんの定位置のソファにお母さんはいた
「おかえり!って桃!?」
なんでか桃って呼ぶお母さんは心底驚いていて、手に持っていたお菓子をぼろっと零した
「ただいま…」
「ちは」
少しだけ頭を下げると、桃矢くんはお母さんの元へと足を早めた
そんなにお母さんに会いたいなんて、ちょっと驚き
ちょっとトリップしてると、お母さんの声で現実に戻ってきた
「まぁ座りなよ。あたしに話でもあんの?」
愉快そうに口を開けて笑う母
妙に怖い桃矢くん
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