奴のとなり



妙な空気のまま時間は流れる



いつも騒がしいお母さんも黙って桃矢くんを見ていた



この空気を破ったのは桃矢くん



「いつか桜をもらいに来ます」



爆弾投下



何故にこのタイミング!?



いくら世間知らずなあたしでも、この場面は知ってる



知識にある



ドラマとかである、アレだよね!?



娘さんを嫁にくださいな展開ですよねっ!?



なぜに今っ?



赤ちゃん騒動落ち着いたよね?



今高校生だよね?



いろんなことが一気に頭を駆けめぐる



驚きすぎて、叫び声も出ない



いつもの奇声も喉で縮こまってる



「いい度胸じゃないか」



お母さんは笑うでもなく、怒るでもなく冷静なようで



いつの間にかきちんと座っていた



「今回は勘違いだった。でもそうなっていたとしても、それぐらいには思ってます」



お母さんをじっと見据えたまま続けられる言葉



赤ちゃんのことを言ってるって分かった



あたしの胸に温かな何かが生まれる



「桃矢くん、…あたしと結婚するの?」



「したくないのか?」



あたしは首をふるふる振った



したくない訳ない



考えたことなかったけど、今考えてみた限り



一緒にいるのが当たり前な今、いない未来が想像できなかった



他の人といる自分が想像できない



「なら決まりだな」



そう言って優しく笑うと、あたしの頭をくしゃりと撫でた









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