林檎と、キスと。


彼の前を歩くわたし。

その背中に添えられた彼の手は、きっと冷めたい。

モコモコのパーカーを羽織ってしまったことを少しだけ後悔した。


「急に、ごめんね」

振り向きもせずに謝ったわたしの頭を、彼は、

「気にすんな」

と言って、ぽんぽんと優しく叩く。


「熱は?まだ下がんねぇの?」

彼はそう言いながら手にしていたビニール袋をテーブルの上に置くと、首にグルグルと巻いていた黒色のマフラーを外し、コートを脱ぎはじめた。


「あ、うん…。まだ…。コホッ。だいぶ、下がったけど…。コホッ」

どこかわざとらしく響いたわたしの咳を、彼は疑うこともせず、心配そうな表情をしながら聞いていた。

< 2 / 20 >

この作品をシェア

pagetop