林檎と、キスと。
彼の前を歩くわたし。
その背中に添えられた彼の手は、きっと冷めたい。
モコモコのパーカーを羽織ってしまったことを少しだけ後悔した。
「急に、ごめんね」
振り向きもせずに謝ったわたしの頭を、彼は、
「気にすんな」
と言って、ぽんぽんと優しく叩く。
「熱は?まだ下がんねぇの?」
彼はそう言いながら手にしていたビニール袋をテーブルの上に置くと、首にグルグルと巻いていた黒色のマフラーを外し、コートを脱ぎはじめた。
「あ、うん…。まだ…。コホッ。だいぶ、下がったけど…。コホッ」
どこかわざとらしく響いたわたしの咳を、彼は疑うこともせず、心配そうな表情をしながら聞いていた。