林檎と、キスと。
「さて、と。さっそく取りかかるとしますか」
「…お、お願いします」
テーブルに置いた袋の中身をゴソゴソとあさっていた彼が、ペコリと頭を下げたわたしにやわらかな表情を見せてくれた。
「ん。ちょっと待ってろな」
真っ赤な物体を手に、小さなキッチンへと向かった彼。
まな板に包丁、お皿にフォーク。
あれこれ言わなくても、この部屋のどこに何があるかを、彼は知っている。
『ゴホッ…。朝から何も食べてないの。ゴホッ、ゴホッ…。りんご…食べたぁい…』
死にそうな声で彼に電話をすると、
『わかった。すぐ行くから、あったかくして待ってろ』
そう言って、来てくれたのだ。