優しい檻


雪依はそのまま帰りたかったが、
弓子夫人が帰さずに理由を聞きたがった。

「へぇ…要するに不倫で悩んでいるのね」
夫人は目を輝かせながら言った。雪依は後悔した。もちろん相手が船越だとは言わなかったが、きっと主婦仲間にすぐ喋ってしまうだろう。

「あの、この事は誰にも言わないで下さい」
最後まで聞かずに、
「あなた、そんな不倫男にそんなに入れ込むなんて、無駄よ!時間の無駄!」

「無駄…?」

「絶対、未来なんか無いんだから。あなた若いし、そんだけの美貌だもの、相手はゴロゴロいるわよ!」

――ああ…やっぱり失敗だった。

そんな正論、聞きたくもない。

「失礼します。また来週来ます。」
と言い、雪依は走り出した。


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