優しい檻

船越からそんなありふれた下らない言葉が出るとは思わなかった。

「私をこんな風にしたのは先生じゃない!」

雪依は自分の持っていた楽譜を彼に投げつけた。

「責任とってよ!!」

手当たり次第、狂った様に物を投げつけた。メトロノームが彼の大事な指に当たった。

「いい加減にしろ!」
彼は雪依を押さえつけた。

「―もう、卒業するんだ。俺からも、お前の父親からも。」

雪依は彼の指に触れた。血が出ていた。

「――ごめん」

船越は雪依を抱いた。

「ごめんな
全部、俺が悪いんだ…」


―その抱き方は悲しい程優しかった…




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